毎晩シャワーを浴びる頃には精魂力尽き果てていて、浴槽に座り込んで目を瞑って、目の裏側でひっきりなしに弾けては消えていく鮮烈な毒々しい水色を見ている。水色の裏で展開されている唐突なイメージが薄っすら透けていて、あ、浮かんだ肋骨みたい、なんてさ。なんでこんなどぎつい水色なんだろーと思うけど、多分意味を求めてもそこに明確な意味なんて用意されてないから、考えるだけ無駄。考えるだけ無駄で、求めるだけ無駄で、でもそういうのを諦めたくないと思って、熱いシャワーを浴びながらぼんやり考えるけどやっぱり分かんないし。やっぱ分かんないわ、と思って目を開けると、別の仕方の何かが用意されてる。何だろうね、これ。こういうの、本当にほとほと疲れた。

一番重要なファンダメンタルなベーシックな部分はちゃんとおさえる事が出来てるからそこに関してはマジで大丈夫なんだけど、だからといって現状の症状サムシングが全く止まらないのがやっかいで、また全部が柔らかくなっていってああもう駄目だ歩いてる筈なのに歩いてる感覚すら上手くつかめない何で自分が移動してるのかいまいち分かんない自分が存在してるのかも定かではない私を含めた全部の存在者がゆるふわに溶解していく世界に、ああーダメですお客様いけませんいけませんお客様的ないつものやつ。あーもう正直狂いそう。道端で蹲りたくなる。いつまで経っても慣れない気分の悪さに辟易して、手法がお手軽なものだからついつい手の甲をつねって自分の存在を確認したくなるのに、生じた筈の痛みすら断絶されて自分のものだって感じないのがただただ謎だし、痛みが断絶されてるが故に強さの調節が全く出来ないのもほんと馬鹿っぽくてウケる。手をつねる度に、代わりに手を握ってくれる人でもいたら、ひょっとしたらこんな事しなくてもいいのかなーとか一瞬思うけど、そういう都合の良い人間なんているかよっていう。マジで面白い事にそういう人はいないので仕方ない。仕方ないのだけど、どうもこういうのって、一人で背負って生きるのって、疲れるよな。こういう風にもうへとへとに疲れると、たまに誰かに思い切り責任を放り投げてみたくなる。生じた全部を誰かに押し付けちゃいたい。誰かの持ってくる幸せを食べるだけの係になりたい。誰かが運んでくる甘ったるいだけの栄養のないピンク色の生クリームみたいに蕩ける何かを食べて文句ばっかり言う我儘な係になりたい。でもそんなのありえないし、あったとしても仮初で意味のないものだからって分かってるんだけど、それでもたまにはさあ、思うくらい許してよ。せめて誰かの胸の中で眠れば悪夢も見ないのかしら、自分の大声で起きても隣に誰かいれば怖くないのかしら、思い切り抱きしめてもらえれば手に痣を作らなくてもいいのかしら、自分が存在していると分かるのかしら、とゲロ吐くくらい甘ったるい夢想をする乙女チック人間モードくらいは許してよ。僕だってぇ、人間だからぁ、最近ほぼ毎晩のように悪夢だのおかしな夢だのをひっきりなしに見て、起きたら今度は現実がまるで夢みたいにあやふやで掴みどころがないし、もう、正直こんなこたあ言いたかないけど、もう生きてるだけで疲れるんですよ。なんか、もう。何が何だか。このままだとまた歩けなくなる。

僕は戦う前から勝つ事を約束されてるんだけど、実際取っ組み合って戦うのは僕一人なわけで。勿論武器作ってくれたりとか、傷の治療をしてくれたりとか、ご飯作ってくれたりとか、そういうのはあるけど、ペシミスティックな見方をしてしまうと、結局僕の戦場に入り込んでくる人間なんて一人もいないんだよね。事実は硬質で、殴られると痛い。自分で自分の考える形の幸福を手に入れる事を諦めないで戦い続けるのがかっこいいって知ってるから頑張ってるけど、正直疲れる。全部自分の責任にするのは正直きつい。きつい事が一人で出来る人だからこそ、かっこいい人なのかな。そういう事じゃないと思うんだけどな。よく分かんないけど、もう無理だよ~ひとりじゃ戦えないよ~ってなっても、かっこいい人は多分かっこいいんだと思う。私はそれを言えないから、かっこよくないのかな。そうかもしれないね。でも本当の事を言うと、僕は誰にそれを言えばいいかの判断が全く付かないんだ。引かれそうで怖いんだ。寄りかかると皆辟易して去っていくのが怖いんだ。裏切られるのが怖いんだ。そういう経験ばかりしてきたそういう人間なんだ。ほんとマジウケる。何で生きてんの?

こんなへとへとになって疲れきってまで何で生きてんの?

もうそれこそ盲目的な生命衝動。ただ生きたい、そう思っちゃう才能に恵まれてんの。おめでとう。よかったね。よかったよ。その分苦しんだとしても、生きてる方が何億倍もマシだ。