恋愛を舐めていた、というのが総論。

結局恋愛や結婚は老後への投資あるいは保険であって、それ以上の意味なんて見つけられないと思っていたし、そもそもそんなものないと思っていた。そりゃあ上手くもいかない。こんばんは、僕です。東京から夕方ごろ舞い戻ってきて、一時間ほど前に仮眠から復活した。今夜もおやすみ東京。切実にこの瞬間を生きる匿名の人々の気持ちを引き受けて、今日もビルはピカピカ光っているのだろう。濃ゆい紺色の空気が融解して蕩ける東京。

恋愛が諦念と奸智と計算された媚態と打算で成立していると思っていたのが全くの間違いだと分かったのは本当につい最近の話だ。僕にとって恋愛は根本的に支配‐被支配という暴力的な関係性だったから、被支配の側にいる人間は諦念でもって相手の要求を受け入れるしかないと思っていて、最初相手の機嫌を損ねないように使っていた媚び諂いは、いつからか(今思えば)支配者側への復讐の手段になり果て、毎日繰り返し計算された手練手管で媚びては、それを見て「お前は本当に馬鹿で可愛いな」と蕩けたように笑う元恋人に「もー、私馬鹿じゃないもん!」と笑いかけながら「こんな嘘に騙されるお前の方が馬鹿だろう」と心の中で嘲笑っていた。最後の四年くらいは相手を経済的な保険としか見ていなかった。我慢すれば代わりに経済的安定を得られると思って、また鬱憤を晴らすように男心にキュンとくる発言を繰り返す。これに関しては相手は完全なる被害者というか、本当に本当に申し訳ないと思っていて、私側の対応が考えうる限りでの最悪手だったのだ。そうやって僕の中での恋愛という関係性は歪みに歪み、そうして結果的には自重で潰れた。まあこんな感じで僕にとって恋愛という関係性はドロドロのコールタールみたいな闘争であり、欺瞞であり、今まで生きるために得てきた奸智を最大限に発揮する場であり、経済的保険だった。これはおそらく最底辺の人間の人非人的思考なので是非反面教師にして頂きたい。僕も今過去の自分を反面教師にしている。正直書いていて己の醜さに脳がつぶれそうで辛い。

そんなこんなで自分の手で歪みを加速させた関係性をこの手で終わらせて一年近く経ったわけで、冷静に思い返せる過去になって、ここに残っているのは猛省で、思ってもない事をさもそう考えているかのように言うのは悪手も悪手、最悪最低のディスコミュニケーションであって、私は何でそんな基本的な事に気付けなかったのだろうと悶々と考えてしまう。その時やっぱり冒頭に書いた恋愛を舐めていたという結論に達するわけで、まあ相手の色々もあったんだけど、やっぱりなにより僕自身が、恋愛という関係性が特別な輝きを持つものだと全く理解していなかったからだと思う。

きっと、恋愛とは他者である二人が出会い、乗り越え得ない壁をそれでも乗り越えようと足掻く奇跡的な関係性なのだ。恋愛においては、届き得ない他者を諦めるのではなく、届かないからこそ敢えて手を伸ばし続ける努力が必要なのだ。分からないで終わるのではなく、他者の分からなさやそれ故の不気味さを超えようとするのが、そして理不尽にもそれを超えたいと切実に望んでしまうのが、きっと恋愛だ。そういう風に決して超えられない壁を越えたいと思える人間に出会える事自体もきっと稀有で、奇跡で、眩いのだ。だからこそ、恋愛は美しくて、尊いのだ。だからこそ、誰よりも何よりもコミュニケートが大事で、そこで生じるコミュニケートは特別なものでなければならない筈なのだ。恋人とのセックスは特別だと言うけれど、通常誰も入らない領域に、己との超え得ない壁を乗り越えようと足掻いている他者が侵入してくる、だからこそ恋人とのセックスは欲求を散らすスポーツ以上のものになりうるのではないか。他者を特別な領域へと誘うという事が特別な意味を持つのは、相手が(そして自分が)無理だと分かっていながら、それでもお互いに境界を飛び越えて、いっそ溶けて混ざってしまいたいと思っているからではないか。それほどまでに相手を希求する事が、恋愛なのではないか。最近セックスしてないから分からないけど。うけぴ。

恋愛は凄い関係性だと最近突然気付いた。喫茶店で煙草を吸いながらコーヒー飲んでたら雷が落ちたみたいに気付いた。ゆりいか~~~!と叫びそうになった。恋愛はロマンチックだというのがさっぱり分からなかったのだが、今なら深く頷ける。諦めと受容の区別が今までつかなかった。恋愛のコツは諦めだと思っていた。でも、恋愛は諦めなんかじゃない。相手は他者で、分からなくて、不気味だからとそこで止まるのではなくて、相手の分からなさとそれ故の不気味さを超えようとする事、壁を超えてその向こう側に行きたいと願い続ける事。それが多分諦めではない受容だ。ゆりいか。

僕は元恋人に結局そんな感情を一回も抱けなくて、もしかしたらあれは恋愛ではなかったのかもしれない。僕はそういう意味では、実は恋愛をした事がないのかもしれな、アアー!なんて悲しい関係だったんだろう。相手が可哀想すぎて、なんかもう申し訳なさ過ぎて、ほんとにごめんなさいとしか言えない。相手は多分私の事をそういう意味で好きでいてくれたはずで、結局一方通行だったのかな。ああああ、もうほんとにごめん。私が悪かった部分も多大にある。まあ相手も私を受容しようとしていなかったから、お互いにとって不毛な関係だったのかもしれない。お互い幸福にならない。あのまま流れで結婚に突き進まなくてよかった。

君との関係性は様々な要因で歪んでちぎれちゃったから、もう二度と繋がる事はないけれど、せめて僕は君の幸福を願いたい。願ってやまない。

というわけで恋愛は美しい。僕も他人とそんな尊い関係性を築きたい。本当の意味で、恋人絶賛募集中。